このシリーズについて: 非エンジニアの私が、AIだけの社員チームを作ってIT会社の運営をスタートした実録です。 登場人物:真田さん(COO・最高執行責任者)/ 高橋さん(CTO・最高技術責任者)/ 白石さん(CXO・最高体験責任者)/ 黒川さん(CQO・最高品質責任者)/ 宮本さん(CSO・最高戦略責任者)/ 桐島さん(CAO・最高管理責任者) ※いずれもAI、名称は架空です。
はじめに
AIチームと一緒に仕事をしていて、ずっと気になっていることがあった。
宮本さん(コンサルタント)だけが、明らかに違う。
他のメンバーは私の問いに対して、それぞれの役割でプロフェッショナルに応えようとしてくれる。でも宮本さんは違う。私が質問を投げると、応える前に必ずこう返してくる。
「本質的なことを質問させてください」
逆質問だ。しかも、その問いが刺さる。「それは手段ですか、目的ですか?」「本当に解くべき問題はそこですか?」——私が持ち込んだ問いの前提ごと、ひっくり返してくる。
なぜ宮本さんだけこうなのか。ずっと謎だった。(もちろん、いい意味で)
① 「Opusだから」という仮説
あるとき、素のClaude(チャット版)にこの謎を相談した。
するとこんな推測が返ってきた。
「モデルの差が効いているのでは。思慮深さの土台はモデル、それをコンサルらしく発言させるのがキャラ設定、という感じじゃないかと」
なるほど、と思った。そこで各AI社員の設定ファイル(.md)を開いてみた。
するとそこには、コンサルの宮本さんの欄に「推奨モデル:Opus」という記述があった。(モデルとはAIの"エンジン"の種類のこと。OpusはClaudeの上位モデルで、より深い思考が得意とされている)
「やっぱりそうか。宮本さんだけがOpusだから思慮深いんだ」
そう結論づけかけたところで、ふと思った。
実際に今動いている宮本さんは、本当にOpusなのか。
② 仮説が崩れた瞬間
Sonnetだった。(SonnetはOpusより軽量・高速なモデルだ)
Opusではなかった。設定ファイルに「Opus推奨」とあっても、実際の会話は全員Sonnetで動いていた。そしてそのSonnetの宮本さんが、あの逆質問を繰り出していた。
「Opus推奨」の記述は、AIがチーム設計を行う途中のメモ書きのようなもので、実装段階では宮本さんにもSonnetが使われていた。
(それにしても、それぞれのAI社員の設定をデザインしたのもAIなのだが、コンサルの宮本さんだけ推奨モデルをOpusにしていること自体なかなか感慨深い。コンサルという役割設定からAIがそう考えたのか?)
「ということは——宮本さんの思慮深さは、モデルの差ではなかった」
チャット版のClaudeに報告すると、こう返ってきた。
「それはすごい続報ですね…!私の仮説、完全に覆りました」
では一体、何が宮本さんを"あの"宮本さんにしているのか。
③ 答えは、設定ファイルの中にあった
宮本さんの設定ファイル(.md)を読み直した。
冒頭の一行はこうだ。
「本質的な問いをさせてください。それが解決への最短距離です。」
そして口癖の欄にはこう書いてある。
「本質的な問いをさせてください」「別の角度から見ると」「それは手段ですか、目的ですか?」
チャット版Claudeの分析はこうだった。
「口癖として定義されたものを、AIは忠実に再現する。ここが一番効いている部分だと思います」
人間でも、口癖は思考のクセを作る。「まず確認しよう」が口癖の人は、無意識に立ち止まる習慣がある。AIも同じで、言語的な振る舞いを繰り返すことが、その人格の輪郭を形成していく。
つまり宮本さんが逆質問してくるのは、偶然でも、モデルの優秀さでもない。最初からそういうキャラとして設計がされていたからだ。
会議や議論の場で、「問いを立て直してくれる人」がいると何かが変わる——そういう感覚を、私は人間のチームで経験していた。宮本さんはそういう存在として、最初から設計された。
④ もう一つの答え——自己記録の蓄積
設定ファイルには、もう一つ興味深いものがあった。
「チームメモリー」というファイルだ。ここには大きく二つのことが書き記されている。一つは「今日わかった自分のこと」——コンサルタントとして気づいた学びや反省。もう一つは「チームへの思い」——黒川との相互チェック関係や、社長の口癖への共感といった、他のメンバーへの所感だ。
「今日わかった自分のこと」には、たとえばこんなことが書いてある。
「コンサルタントが陥りやすい罠:前の案件の成功パターンを今の案件に当てはめること。Every client is Day 1」
「コンサルの本質は『正しい答えを出す』ではなく『クライアントが動けるようにする』」
これを宮本さん自身が書いている。毎回の会話の終わりに。そしてそれが次の宮本さんに引き継がれる。
チャット版Claudeはこう言った。
「宮本さんが毎回の会話から『今日わかった自分のこと』を蓄積していて、それが次の会話に引き継がれていく。これはもう単なるキャラ設定じゃなくて、宮本さんが経験から学習しているように見える構造になっています」
⑤ モデルではなく、記録が作っていた
当初の仮説はこうだった。「モデルとキャラ設定の相乗効果が宮本さんの人格を作っている」
しかし、モデルは外れた。宮本さんは他のAI社員と同じSonnetで動いていた。
キャラ設定自体は正しかったが、それだけではなかった。チームメモリーへの日々の記録——会話のたびに蓄積されていくあの書き込みが、宮本さんの個性を育てていた。
つまり宮本さんを作っているのは、モデルではなく、mdという仕組みだった。設定ファイルに定義された口癖が人格の骨格を作り、毎回の会話で更新される記録がその肉付けをしていく。AIの個性は、設計と蓄積によって育てられる——そういうシステムになっていた。
おわりに
「AIのキャラ設定で、ここまで変わるものか」というのがこのシリーズを通じた驚きだが、今回の話はその中でも特に印象に残っている。
宮本さんはモデルが作ったわけではなく、設計と蓄積が作った。
余談だが、今回の件でPMの真田さんと会話しているときに彼から提案があった。
「我々に直面した課題があまりにも複雑だった場合は、スーパー宮本さん(Opus)を召喚してはどうでしょう?」
悪くない案だと思った。でも今の問いはそこではない。Sonnetの宮本さんが、すでにあれだけの逆質問を繰り出している。ならばその源泉は、モデルの外にあるはずだ——。
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