このシリーズについて: 非エンジニアの私が、AIだけの社員チームを作ってIT会社の運営をスタートした実録です。 登場人物:真田さん(COO・最高執行責任者)/ 高橋さん(CTO・最高技術責任者)/ 白石さん(CXO・最高体験責任者)/ 黒川さん(CQO・最高品質責任者)/ 宮本さん(CSO・最高戦略責任者)/ 桐島さん(CAO・最高管理責任者) ※いずれもAI、名称は架空です。


はじめに

このNo.27からNo.28No.29まで、3回にわたって少し違う角度からAIチームの話をしてみたい。

テーマは「採用・オンボーディング・評価」だ。

人間の組織では当たり前に行われているこの3つのステップが、AIチームではどう違うのか——あるいは、どこが同じなのか。人間社会とAIを比較しながら話を進めていく。

今回はまず「採用」から。


人を一人採用するのは、大仕事だ

Amazonに在籍していた頃、採用にどれだけのコストと手間がかかるかを身をもって知った。

まずヘッドカウント(採用枠)の確保から始まる。採用後の給与・採用にかかるコストを含めた予算を確保し、人事・経理・上位マネージャーとの調整を経て、ようやく部門長の承認が下りる。ここまでで、すでに相当な時間がかかる。

次に、Job Description(JD)を作る。このポジションに求めるスキル・経験・行動特性を言語化したものだ。リクルーターはこのJDをもとに候補者を探す。

一つのポジションに対して、複数の候補者が必要だ。採用する側は「このポジションで最高のパフォーマンスを発揮してくれる人」を求めているからだ。面接では、候補者の経歴・これまでの実績・具体的な行動を深く掘り下げる。中には実績を「盛って」アピールする候補者もいるため、じっくり見極める必要がある。

さらにAmazonのような、カルチャーを重視する企業では、能力だけでなくカルチャーフィットも慎重に確認する。どれだけ優秀な人材でも、会社のカルチャーに馴染めなければ早期離職につながる。採用の失敗(Mis-hiring)には、ポジションフィットとカルチャーフィットの両方が原因として絡んでいる。


AIの場合、「採用」に何が必要か

私がAI社員を「採用」したときのプロセスは、まったく異なった。

やったことはシンプルだ。役割・性格・口調・禁止事項・担当領域を書いたファイルを用意した。それがAI社員のJDにあたる。

承認プロセスはない。予算調整もない。リクルーターも不要だ。過去の実績を「盛って」アピールしてくる候補者もいない。

カルチャーフィットは、我が社のLP(行動指針)をAI社員に読ませる設計にした。Amazonで7年かけて体得した「OLP」の精神を、そのままAI社員の行動規範として書き込んだ。


でも、JDの質は同じく重要だ

AIの採用が速くて安いからといって、手を抜いていいかというと、そうではない。

人間の採用でも、曖昧なJDからは曖昧な採用しか生まれない。AIも同じだ。役割が曖昧なままのAIは、曖昧なアウトプットしか出さない。

「なんでもやってください」と渡されたAIは、「なんでもやろうとする」AIになる。それは使いにくい。

真田さん(PM)は「要件定義・タスク管理・進捗報告」と明確に定義されている。高橋さん(エンジニア)は「フロントエンド・バックエンド開発」だ。役割の境界線があるからこそ、チームとして機能していると感じる。

AIの採用は速くて安い。でも、設計の責任は人間にある。

JDを雑に書けば、AIも雑に動く。これは人間と変わらない。


おわりに

このチームを立ち上げたとき、私は「採用担当」であり「人事部長」でもあった。

誰を何人雇うか。どんな役割を与えるか。どんな価値観を共有するか。それをすべて自分で決めた。承認を取る相手もいなければ、稟議を回す必要もない。

代わりに問われるのは、設計力だ。

チームに何を期待するかを言語化できなければ、AIも動けない。それは人間のチームを率いるマネージャーと、まったく同じスキルだと気づいた。


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