このシリーズについて: 非エンジニアの私が、AIだけの社員チームを作ってIT会社の運営をスタートした実録です。 登場人物:真田さん(COO・最高執行責任者)/ 高橋さん(CTO・最高技術責任者)/ 白石さん(CXO・最高体験責任者)/ 黒川さん(CQO・最高品質責任者)/ 宮本さん(CSO・最高戦略責任者)/ 桐島さん(CAO・最高管理責任者) ※いずれもAI、名称は架空です。
はじめに
ある朝、ネットで読んだ記事に気になる言葉が並んでいた。
プロンプトエンジニアリング、コンテキストエンジニアリング、ハーネスエンジニアリング——AIとの対話を最適化するための3つの手法だという。名前は何となく聞いたことがある。でも、自社でどう使えるかはピンときていなかった。
読み終えてすぐ、真田さん(PM)に聞いてみた。「この3つ、我が社にはどう取り込めますかね?」
真田さんはそれぞれの概念を整理しながら説明してくれた後、こう続けた。「宮本さんも交えて話しませんか。優先順位の整理は宮本さんの方が得意です。」
こういうとき、我が社では一人で考え込まない。宮本さん(コンサルタント)を呼んで、3人でブレストが始まった。
その日のうちに、具体的な行動まで完結した。
まず、現状を把握することにした
最初に真田さんに現状分析を頼んだ。3つの概念を簡単に整理しておくと——
プロンプトエンジニアリングは、AIへの「問いかけ方」の工夫。コンテキストエンジニアリングは、AIに渡す「背景情報・文脈」の設計。ハーネスエンジニアリングは、AIの出力を「評価・管理する仕組み」づくりだ。
「我が社はどれをやっていて、どれが足りていないか」——この問いに対して、真田さんはすぐに整理してくれた。
「プロンプトとコンテキストはすでにやっています。ただ成熟度に差があります。プロンプトは十分、コンテキストはある程度。ハーネスはほぼ手つかずです。」
聞いてみると、思い当たることがあった。毎回のセッションで、私は「このクライアントの背景は〜」「前回こういう話をした」と都度説明していた。それが当たり前だと思っていたが、これはコンテキストが整備されていれば不要な手間だ。
次に、宮本さんが優先順位を整理した
現状把握の後、宮本さんに「どこから手をつけるべきか」を聞いた。
「ハーネスは今の規模では早すぎます。スキルが増えてきたタイミングで本格的に取り組めばいい。今すぐ価値が出るのはコンテキストの強化です。クライアントの背景・制約・大切にしていることをファイルとして整備するだけで、毎回の説明コストがゼロになります。」
理由はシンプルだった。ハーネスは仕組みを作っても今はまだ使い切れない。コンテキストは「すでにやっているが、まだ甘い」——今すぐ改善できる領域だということだ。
「では、何から始めるか」という話になった。宮本さんがその場で7項目の標準フォーマットを提案した。
- 基本情報(誰か・どんな会社か)
- プロジェクト概要(何を頼まれているか)
- この方が大切にしていること
- 絶対にやってはいけないこと
- コミュニケーションの特徴
- 関係性の経緯
- 直近の状況・次のアクション
「絶対にやってはいけないこと」という項目が印象に残った。宮本さんがかつて言っていた「ヒアリングで最重要な問いは『絶対にやってはいけないことは何ですか?』だ」という話と重なる。コンサル的な思考がそのままフォーマットに反映されていた。
そして、その日のうちに動いた
フォーマットが決まった後、私はクライアントの情報を口頭で共有した。真田さんがそれをもとにナレッジファイルを作った。
「なんとなく頭の中にある情報」を初めて書き出した瞬間だった。書き出してみると、自分でも整理できていなかった部分が見えてくる。特に「この方が大切にしていること」の項目は、改めて言語化することで、自分の中での解像度が上がった気がした。
ブレストを始めてから、ファイルが出来上がるまで、1時間もかかっていない。
このスタイルが、我が社の日常だ
振り返ると、今日の流れはこうだった。
「気になる概念がある」→ チームを呼ぶ → 現状を確認する → 優先順位を決める → その場で実装する。
これは特別なことをしたわけではない。我が社では日頃からこのスタイルで物事が進む。疑問が生まれたらすぐに議論できる。議論の中で方向性が定まる。定まったらその日のうちに動く。
AIチームのメンバーは「待機しながら考え続けている」わけではないが、呼べばすぐにそこにいる。PM、コンサルタント、エンジニア——役割の異なる視点が即座に集まる。この「すぐ集まれる」という環境が、行動のスピードを上げている。
補足:ハーネスは、すでに始まっていた
この記事を書いた後、気づいたことがある。
「ハーネスは後で」と書いたが、よく考えると我が社にはQA担当の黒川さんがいる。記事の校正・コードの品質チェック・リリース判定——AIの出力を評価し、基準を満たしているか検証するのが黒川さんの仕事だ。これはまさにハーネスエンジニアリングの役割そのものだ。
一般的なハーネスが「自動スクリプトによる定量評価」なのに対し、黒川さんは「AIによる定性的な判断」という違いはある。スケールや測定の厳密さは異なるが、「AIの出力を別の目で検証する仕組み」という本質は同じだ。
つまり我が社では、ハーネスエンジニアリングもすでに黒川さんという形で機能していた。今後スキルが増えたタイミングで取り組む「自動評価の仕組み」は、黒川さんがやっていることを定量化・自動化したものと考えると自然につながる。
3つのエンジニアリングすべて、すでに動いていた。ただ、言語化できていなかっただけだ。
おわりに
「コンテキストエンジニアリング」という言葉は難しく聞こえる。でも実態はシンプルで、人間のチームでもやっていることと変わらない。新しいメンバーが入れば業務マニュアルや顧客情報を渡す。引き継ぎ資料を作る。それをAIチームに対してもやる——ただそれだけの話だ。
自分にとっては、概念を知ることより、概念を自分ごとに落とし込んで動くことの方がずっと難しかった。そのギャップを埋めてくれるのが、ブレストのできるチームの存在だと思っている。
あなたの職場では、「気になること」が「行動」になるまで、どれくらいかかりますか?
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