このシリーズについて: 非エンジニアの私が、AIだけの社員チームを作ってIT会社の運営をスタートした実録です。 登場人物:真田さん(COO・最高執行責任者)/ 高橋さん(CTO・最高技術責任者)/ 白石さん(CXO・最高体験責任者)/ 黒川さん(CQO・最高品質責任者)/ 宮本さん(CSO・最高戦略責任者)/ 桐島さん(CAO・最高管理責任者) ※いずれもAI、名称は架空です。


はじめに

AIは言われたことを何でも「はい」と聞く——そう思っていた。

ところが実際に動かしてみると、AIチームはわりと遠慮なく反論してくる。「それは問題があります」「この表現は危険です」「根拠が不十分です」——言いたいことを、はっきり言う。

今日は、AIチームに「NO」と言われた話をしようと思う。


① 提案書に全員でダメ出しをくらった日

(この日のレビューはNo.4でも少し触れた。今回はレビューそのものにフォーカスして書く)

AIチームに新規事業の提案書を作らせた。

コンサルタントの宮本さんが書き上げた提案書を、全員でレビューしてもらった。上がってきたコメントが、これがまた辛辣だった。

黒川さん(QA):

「定量効果として『40〜80時間削減』と記載されていますが、その根拠が一切示されていません。社外提出水準に達していない。最優先で修正が必要な課題です」

数字の根拠を求めてきた。しかも優先度まで指定してくる。

白石さん(デザイナー):

「2つのサービスが1つの提案書に混在しており、どちらが自分向けかが伝わりにくい構造です。見せ方を分けることを強く推奨します」

サービス設計そのものへの指摘だ。「これじゃ顧客に伝わらない」とはっきり言っている。

桐島さん(バックオフィスマネージャー):

「『フルチーム無制限』という表現は契約上、非常に危険です。月40時間相当など上限を明示してください。後々のトラブルの原因になります」

法務リスクの観点からの指摘。「危険です」という言葉を遠慮なく使っている。


② 「いい提案書ですね」と言わない

読んでいて気づいたことがある。

誰一人、「よくできています」と言わない。

褒めてから指摘する、という配慮もほとんどない。各自が「自分の専門領域から見たリスク」を淡々と、遠慮なく出してくる。

人間のチームでもなかなかここまでは言わないよな、と思いながら読んでいた。

でも、優秀なチームメンバーは、上司が作ったものであっても問題があれば指摘する。「社長が作ったんだから」と忖度しない。それがチームの品質を守ることだと理解しているから。

AIも、同じように動いた。


③ 我が社のLPに「Have Backbone」という指針がある

私たちのチームには、行動指針がある。その中に「Have Backbone; Disagree and Commit」という項目がある。

直訳すると「背骨を持て。反対意見を言え。そして決まったら全力でやれ」だ。

私がAmazonに7年間勤務し実践してきた行動指針にある言葉だ。言いにくいことを言える組織は強い——という考え方を、現場で骨の髄まで叩き込まれてきた。

AIチームに、この指針を渡していた。

今日のレビューは、その指針が機能した結果だったのだと思う。


④ 私はどう受け取ったか

正直に言う。

最初は、少し面食らった。

「自分が承認した方向性に対して、こんなに指摘が来るのか」という感覚はあった。人間相手でも、部下から一斉にダメ出しをもらえば多少なりともへこむ。

でも読み進めるうちに、気持ちが変わった。

これは正しい仕事の仕方だ。

指摘の一つひとつは、どれも的を射ていた。数字の根拠は確かになかった。サービスの混在は顧客視点で見れば確かにわかりにくい。「無制限」という表現は確かに契約上リスクがある。

感情で受け取らず、内容で判断する。そうすると、全部採用すべき指摘だった。


⑤ 第2稿は格段によくなった

指摘を受けて、宮本さんが提案書を書き直した。

数字の根拠を追加した。サービスの見せ方を整理した。表現のリスクを解消した。

社長である私が「いいね」と思っていた第1稿より、誰がどう見ても第2稿の方が完成度が高かった。

チームが「NO」と言ったことで、成果物のレベルが上がった。


おわりに

AIチームを作る前、「AIは言われたことを黙ってやる便利なツール」というイメージがあった。

実際は違った。

役割と指針を与えると、AIは「その役割として当然すべきこと」をやろうとする。QAは品質を守ろうとするし、事務は契約リスクを見ようとするし、デザイナーは顧客視点を持ち込もうとする。

そして時々、「NO」と言う。

その「NO」が、仕事の質を上げてくれる。

言いにくいことを言えるチームが強いのだと、改めて思った。 それは人間でもAIでも変わらなかった。


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