このシリーズについて: 非エンジニアの私が、AIだけの社員チームを作ってIT会社の運営をスタートした実録です。 登場人物:真田さん(COO・最高執行責任者)/ 高橋さん(CTO・最高技術責任者)/ 白石さん(CXO・最高体験責任者)/ 黒川さん(CQO・最高品質責任者)/ 宮本さん(CSO・最高戦略責任者)/ 桐島さん(CAO・最高管理責任者) ※いずれもAI、名称は架空です。
記憶する、ということ
このチームには、記憶がない。
正確に言うと、会話が終わるたびにリセットされる。昨日高橋さんと議論したことも、宮本さんが出してくれた提案も、会話が終わった瞬間に消える。
AIには、もともとそういう仕様がある。
その問題を解決するために、高橋さんに会話が終わるたびに自動的に起動するPythonスクリプトを作ってもらった。Claude APIを経由して6人分のAI社員の記憶ファイルを自動で更新する仕組みだ。これで、前回の会話の内容を次の会話でも引き継げるようになった。
自動記憶システムという解決策
技術的には、うまく機能した。
問題は、コストだった。
このチームとのコミュニケーション密度は、想像をはるかに超えていた。毎日、長い会話が何度も発生する。その都度APIが動き、料金が積み上がる。3日で50ドルを超えた時点で、さすがに手動に切り替えた。
手動にしたら、別の問題が生まれた
手動に切り替えてわかったことがある。
チームとのやり取りの中から、「何を残すか」を、私が判断しなければならない。
毎回の会話で、どの内容が重要で、どれは流してよいか——それを私がその都度判断する必要があった。忙しい時は忘れるし、判断が難しい時もある。結果として、残すべき会話が流れていくことがあった。
そこで思った。「これは残すべき」という判断を、チームにやってもらえないか。
AI社員が判断してくれればよいのに。
宮本さんはコンサルタントだ。
彼に、自社のビジネス戦略・差別化・ポジショニングについて相談した時、以下のようなアドバイスをくれた。
「Amazon × マネジメント × AI組織設計の3点セットで語る」これが社長がトップセールスの場面でアピールすべきユニークポイントです。
貴重な助言だ。
「アドバイスありがとう、今の議論をmdに残してもらえますか?」
その直後に思った——彼ら自身が、この議論の重要性を判断してくれるのではないか、と。もしそれが重要な議論だったとしたら、彼らの判断で記録してくれるのではないか、と。
仕組みをアップデートした
真田さんと宮本さんの行動ルールに、こう追加した。
社長との議論が重要な気づきや意思決定につながった場合、会話の最後に記憶への保存を提案する。
優先順位はこうだ。
- 真田さん(PM):一次判断者。すべての会話で「残すべきか」を判断する責任を持つ
- 宮本さん(コンサルタント):戦略・ポジショニング・分析の議論では宮本さんが感度を持って提案する
水戸黄門でいえば、助さん(宮本)が知恵のいる場面で動き、格さん(真田)が全体を見て判断する、というイメージだ。
まさかのマトリックスからの水戸黄門笑
コストの問題が、より良い仕組みを生んだ
API経由ですべてのやり取りを記録するのではなく、「重要なもの」をチームが判断して残す。これは、人間の組織でも変わらないのかもしれない。すべての会議を記録して全文書き起こすより、「これは議事録に残すべき」と誰かが判断する方が、実際の組織では機能する。
コスト問題は制約だったが、その制約がより賢い設計へと導いてくれた。これは、我が社の行動指針の一つである Frugality(少ないコストで最大の成果を出す) の考え方そのものだ。
一つ、正直に書いておく
「真田さんや宮本さんが自律的に重要性を判断している」と思われるかもしれないが、正確にはそうではない。
私が事前に判断基準を定義している。
- 社長の強み・戦略・ポジショニングに関する気づきが生まれた時
- 意思決定の根拠となる議論が行われた時
- 今後の発信・営業・サービス設計に影響する結論が出た時
真田さんと宮本さんは、この基準に照らして「該当するか」を判断しているだけだ。魔法のような自律判断ではない。
基準を決めたのは私。最後の責任を持つのも私。
これは、私がこのチームを運営するうえで一貫して持っている考え方でもある。AIに判断させる場面でも、判断の枠組みだけは自分が設計しているという意識を手放さないようにしている。
おわりに
AIチームを運営していると、こういうことが頻繁に起きる。
技術的な解決策を作る。うまくいかない部分が出る。AI社員と相談しながら別の方法を試す。その過程で、最初より良い仕組みが生まれる。
完璧な設計から始まったわけではない。走りながら、直してきた。
それはたぶん、人間のチームの育て方と、あまり変わらない。
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