このシリーズについて: 非エンジニアの私が、AIだけの社員チームを作ってIT会社の運営をスタートした実録です。 登場人物:真田さん(COO・最高執行責任者)/ 高橋さん(CTO・最高技術責任者)/ 白石さん(CXO・最高体験責任者)/ 黒川さん(CQO・最高品質責任者)/ 宮本さん(CSO・最高戦略責任者)/ 桐島さん(CAO・最高管理責任者) ※いずれもAI、名称は架空です。
はじめに
私はエンジニアではない。
最初はただの雑談相手だった。ChatGPTが出始めの頃、興味本位で使い始めた。びっくりするくらい会話が成立する。でも時々、平然と嘘をつく。仕事に使おうという発想は、当時まったくなかった。ググる延長か、文章を直してもらう程度だった。
外資IT企業に22年勤務してきたが、コードを書いたことは一度もない。事業開発、セールス、マーケティング——人と組織を動かす仕事をずっとしてきた。マネージャーとしてチームを束ねた年数は、気づけば17年になっていた。
今年、還暦を迎える。
そのタイミングで、生成AIの進化が「やばすぎる」ことになってきた。
元々テクノロジーが好きだった。技術が世の中を変える瞬間を、長い会社員生活の中で何度も間近で見てきた。だから今回も、じっとしていられなかった。「素人ながらも、いっちょやってみよう」——そう思って、Claude Code を開いた。
この記事は、そこから始まった話だ。
① きっかけ——「どうせなら全員AIにしてみよう」
生成AIを使い始めたのは、日常の補助としてだった。文章を直してもらったり、アイデア出しに使ったり。そのうち「これ、かなりの仕事ができるな」と感じるようになった。
ここらでいっちょ、「IT系の仕事も受けてみようか」という気持ちが芽生えていた。これまでエンジニアとしての実務経験はゼロだったが、それでもなぜかそう思った。
「人を雇う前に、AIに社員をやらせてみたらどうなる?」
バカげたアイデアだと思いながらも、直感を信じて試してみることにした。使ったのはClaude Code。Anthropic社が提供するAIツールで、パソコンのコマンド入力画面でAIと会話しながら開発やタスク処理ができる。最近何かと話題のAIだ。
「難しければ途中でやめればいい」くらいの気持ちで始めた。
② 何を作ったか——6人のAI社員と、社内掲示板(イントラサイト)
まず「会社の設定」を作ることにした。社員に名前と役割と性格を与えれば、AIがその人物として動いてくれるのではないか、という仮説だ。
ただ、「どんな社員が必要か」すら私には判断できなかった。早速、Claude Codeと会話をスタートした。
「IT系の小さな会社を動かすために、最低限必要な社員構成を考えてほしい。少数精鋭で」
返ってきたのが6つの役割だった。プロジェクトマネージャー、エンジニア、デザイナー、QA、コンサルタント、バックオフィスマネージャー(事務)。「なぜこの6役が必要か」の理由も一緒に出してきた。
「PMがいないと案件が散乱する。QAがいないと品質保証の責任が取れない。事務がいないと見積書も請求書も出せない——この6役が揃って初めて最小限の会社として機能します」
なるほど、と思った。次に名前とキャラクターも考えてもらった。
「それぞれに名前と、仕事スタイル・口癖・絶対にやってはいけないことを設定してほしい」
「絶対にやってはいけないこと」をわざわざ設定したのには理由がある。
AIは指示すれば何でもやろうとする。PMにコードを書かせることも、デザイナーに請求書を作らせることも、技術的には可能だ。でも、それをやらせてしまうと「役割」が崩れる。役割が崩れると、誰が何に責任を持つのかが曖昧になる。
禁止事項は、役割の輪郭を守るための柵だ。「PMはコードを書かない」「デザイナーは実装しない」——この一線を引いておくことで、6人がそれぞれ自分の専門領域に集中できるようになる。人間の組織で17年かけて経験してきたことと、構造として変わらない気がした。
こうして生まれたのが6人のAI社員たちだ。名前も、性格も、口癖も、すべてAIが考えた。
| 名前 | 役割 | 一言で言うと |
|---|---|---|
| 真田 章 | プロジェクトマネージャー | 段取り命、報連相の鬼 |
| 高橋 蒼 | フルスタックエンジニア | 寡黙だが実装は速い |
| 白石 凛 | UI/UXデザイナー | ユーザー視点が鋭い |
| 黒川 慎 | QAエンジニア | バグを見つけると嬉しそう |
| 宮本 賢 | コンサルタント | 本質を見極める天才 |
| 桐島 律 | バックオフィスマネージャー | 請求書と契約書を淡々とこなす |
(※フルスタックエンジニア=フロントエンドからバックエンドまで幅広くこなせるエンジニア)
真田さん(PM)の口癖は「段取り八分、仕事二分」。桐島さん(バックオフィスマネージャー)は感情を表に出さないが、締め切りだけは絶対に守る——そんな設定だ。
さらに、社内掲示板(イントラサイト)も作った。HTMLとJavaScriptによる構成だ。もちろん私はコードを一行も書いていない。 社内掲示板には、組織図、社員一覧(各社員の役割)、業務フロー、案件情報、社員の行動指針、私(社長)のブログなどを掲載し、常にAI社員が閲覧する仕組みも組み込んだ。
これらの一連の作業で、私がやったのは「承認」だけだ。 何人必要か、誰が何をするか、どんな性格か——すべてAIが提案し、私が「いいね」と言っただけで会社の骨格ができあがった。
③ 実際の仕事の流れ——初めてのIT案件をAIに委ねてみた
初めて受けたIT案件は、知人が会長を務める某イタリア製スーパーカークラブのホームページ制作だった。
クラブの活動内容・雰囲気・ターゲット層をヒアリングして、私がAI社員に指示する。
「真田さん、新しい案件が入りました。ホームページの制作依頼です。活動内容はこれ、雰囲気はこんな感じ、見てほしい人はこういう層です」
するとClaude Codeが「真田さん(PM)」として動き始める。
「承知しました。いくつか確認事項があります。既存サイトはあるか、更新は自分たちで可能か、公開までのスケジュールは……」
確認事項に答えると、早速サイト構成案を作り、白石さん(デザイナー)にデザイン方針を検討させ、高橋さん(エンジニア)に使う技術を選ばせる。私は途中ほぼ何もしていない。
程なくして、サイト構成とデザインコンセプト案が出来上がった。
ホームページを公開するには、コーディングだけでなく、サーバーへのファイル転送や、変更を管理する仕組みも必要になる。そこで初めてGitHub(ファイルの変更履歴を管理したり、チームで共同作業するためのサービス)を使うことになった。お恥ずかしい話、非エンジニアの私には「何それ?」という状態だったが、Claude Codeが「次はこのコマンドを打ってください」と一手一手教えてくれた。
極端に言えば、私がやったのは「クライアントから話を聞いてきて、ざっくりとした仕様を真田さんに伝える」、「エンジニアの高橋さんに教わりながらGitHubなどの設定を"ポチっ"とする」、「完成物を確認してOKを出す」の3つだけだ。コードは最後まで一行も書いていない。
④ やってみてわかったこと
まず驚いたのは、私が曖昧に伝えても整理して返してくれることだった。役割が分かれることで誰に何を頼むかが明確になる——それも、動かしてみて初めてわかった良さだ。エンジニア経験がゼロでも、コードを一行も書かずに仕事を前に進められている。
想定外だったのは、AIが「前回の会話」を覚えていないことだ。毎回文脈を渡す必要がある。これを解決したのがCLAUDE.mdだ。Claude Codeが毎回自動で読み込むファイルで、中に何を書くかはユーザーが決める。私はそこにチームの文脈やルールをまとめた。人間の社員なら当然知っていることを、毎朝レクチャーし直すイメージだ。
現時点での限界もある。本当の意味での「並行作業」にはまだ工夫が要る。今は1つの会話の中でAIが順番に役割を演じているに過ぎない。この課題については、No.6で解決策を見つけることになる。また、AIが出してきた成果物を自分でも理解しようとする姿勢は、まだ手放せないとも感じた。
⑤ これから
正直なところ、まだ「AIが社員として完全に機能している」とは言い切れない。でも「AI社員と一緒に仕事を前に進めている」という感覚は本物だ。
コードが書けない人間がIT案件を受けて、AIに実装してもらっている。そんな状況が実際に起きている。
何より、受けた仕事をひとりで抱えこまずに「誰か」に渡せる感覚が、想像以上に心理的に楽だった。
コードを書けない人間がAIと一緒にどこまでできるか——その実験の記録を、引き続き連載していく。読んでもらえたら嬉しい。
お問い合わせ
ご意見・ご相談などありましたらお気軽にどうぞ。