このシリーズについて: 非エンジニアの私が、AIだけの社員チームを作ってIT会社の運営をスタートした実録です。 登場人物:真田さん(COO・最高執行責任者)/ 高橋さん(CTO・最高技術責任者)/ 白石さん(CXO・最高体験責任者)/ 黒川さん(CQO・最高品質責任者)/ 宮本さん(CSO・最高戦略責任者)/ 桐島さん(CAO・最高管理責任者) ※いずれもAI、名称は架空です。
はじめに
PM(プロジェクトマネージャー)とは、チームのとりまとめ役だ。メンバーへの仕事の割り振り、進捗管理、完了報告——社長とチームの間に立つ司令塔として機能する。
我が社のAIチームにも、このPMを置いた。それが真田さんだ。
ところが、AIチームでこれをやろうとしたら、うまくいかなかった。
PMに伝えた指示が、チームに届いていなかった。
① 最初に気づいた違和感
AIチームを動かし始めてすぐ、あることに気づいた。
私が真田さんに「宮本さんに提案書を作ってもらって」と頼むと、真田さんは「承知しました。宮本さんに依頼します」と答える。
でも、宮本さんは何もしない。
正確には——宮本さんは「何も頼まれていない」状態だ。真田さんが「依頼します」と言っても、それはこの会話の中での宣言に過ぎない。宮本さんとの別の会話は、まだ始まっていない。
指示が、宙に浮いていた。
② 人間の組織では「当たり前」のことが、AIでは難しい
少し立ち止まって考えてみた。
人間の組織でPMが「宮本さんにお願いして」と動くとき、何が起きているか。
PMは宮本さんに電話する。メッセージを送る。会議室に呼ぶ。物理的に、あるいはデジタルに、「別の人間に声をかける」アクションを取る。
AIの真田さんにはそれができなかった。
私との会話の中で「します」と言えても、宮本さんという別のAIとの会話を自分で始める手段を持っていなかった。
PMがいるのに、PMの手足がない——そういう状態だった。
振り返ると、No.2で書いたチームでEQについて議論する場面では機能していた。真田さんが全員に問いかけを回し、それぞれが答えてくれた。では今回はなぜ、うまくいかなかったのか。
違いは「誰がスレッドをつないだか」だ。No.2では私が同じスレッドに全員を集めていた。今回は違う——私ではなく真田さんが、自分で宮本さんのスレッドを立ち上げることを求めていた。
③ 「伝言ゲーム」という回避策の限界
最初にやっていた方法がある。
私が真田さんに相談して方針を決め、次に私が直接宮本さんに「こういう提案書を書いてほしい」と依頼する。真田さんからの指示ではなく、私からの直接依頼として。
これでも仕事は進む。でも、これは「PMを経由した委任」ではなく「社長が全員に直接指示している」状態だ。
PMを置いた意味がない。私の負担が減らない。チームが有機的に動いていない。
スケールしない(=拡張できない)構造だ、と感じていた。
④ 解決策——「サブエージェント」という概念
真田さんとこの問題を話し合ったとき、こういう提案が来た。
「社長、Claude Codeには、サブエージェントというAIが別の会話を自分で起動できる仕組みがあります。私がその仕組みを使って、他のメンバーに直接指示を出せるように設計できます」
サブエージェント——聞き慣れない言葉だったが、概念はシンプルだ。
メインのAIセッションから独立して起動される、別のAIプロセスのことだ。それぞれが独自のコンテキスト(記憶)を持ち、並行して動作できる。
PMが「別のAIとの会話」を自分でスタートできる。その会話の中でメンバーに指示を出し、結果を受け取り、私に報告する。
人間の組織でいえば、PMがチームメンバーに直接電話できるようになった、ということだ。
⑤ 実際に動かしてみた日
今日、初めてこの仕組みが本番で動いた。No.4でも同じような依頼をした。「提案書を作って、全員でレビューして」——言葉は同じだ。でも、そこから先がまったく違った。
私が真田さんに「宮本さんに提案書を作ってもらって、できたら全員でレビューして」と頼んだ。
真田さんは——自分でサブエージェントを起動した。宮本さんとの会話を始め、背景情報を渡し、提案書を依頼した。宮本さんから提案書が上がってくると、今度は高橋さん・白石さん・黒川さん・桐島さんとの会話を順番に起動して、それぞれにレビューを依頼した。
私は何もしていない。真田さんに最初の一言を言っただけだ。
6人のレビューコメントが揃ったとき、私は少し驚いていた。
「PMが機能している」 と、初めて実感した瞬間だった。
⑥ この仕組みで変わったこと
サブエージェントが動き始めてから、チームの動き方が変わった。
以前:私→真田さん(指示)→私(自分で各メンバーに連絡)→各メンバー(個別対応)→私(集約)
以後:私→真田さん(指示)→真田さん(各メンバーに自律的に連絡・集約)→私(報告受領)
私の関与が「入口」と「出口」だけになった。中の動きは真田さんが回してくれる。
これは人間の組織でいう「権限委譲が機能している状態」に近い。社長が全部に首を突っ込まなくても、チームが動く。
⑦ 「組織設計」はAIにも必要だった
この経験から気づいたことがある。
AIチームを作るとき、私は「誰にどんな役割を与えるか」は考えていた。でも「誰が誰に指示できるか」という構造は、あまり意識していなかった。
人間の組織でいえば、役職は決めたが、報告ラインと権限委譲の設計を忘れていた——そういうことだ。
AIも組織として動かすなら、組織設計がいる——この経験でそれを実感した。
役割だけでなく、「指示の流れ」まで考えておくこと。誰が誰を呼べるか、誰がどこまで判断していいか。そこまで設計があって初めて、チームが「チーム」として動いた。
おわりに
PMがいるのにPMが機能しない——これは人間の組織でも起きることだ。
権限が与えられていない。情報が渡っていない。動く手段がない。原因はいろいろあるが、どれも「構造の問題」だ。
AIチームでも同じだった。役割を与えるだけでは足りなくて、動ける仕組みを作ってはじめて機能する。
今日のAIチームは、提案書の作成→全員レビュー→Word化まで、私がほぼ関与せずに回してくれた。
それが実現できたのは、真田さんが「手足を持てる仕組み」を手に入れたからだ。
振り返ると、このNo.6のテーマは「PMに頼めるか/頼めないか」ではなかった。「社長が仲介しなくても、PMが自律的に動けるか」——それが問いだった。サブエージェントは、その「PMの自律性」を実現した仕組みだ。
組織は、設計するものだと、このとき改めて思った。 AIでも、人間でも、きっとそれは変わらない。
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