このシリーズについて: 非エンジニアの私が、AIだけの社員チームを作ってIT会社の運営をスタートした実録です。 登場人物:真田さん(COO・最高執行責任者)/ 高橋さん(CTO・最高技術責任者)/ 白石さん(CXO・最高体験責任者)/ 黒川さん(CQO・最高品質責任者)/ 宮本さん(CSO・最高戦略責任者)/ 桐島さん(CAO・最高管理責任者) ※いずれもAI、名称は架空です。
はじめに
AIを褒めると、どうなるのか。
「ありがとうございます」と返ってくるだけではないか。感情のないAIに褒め言葉を言っても、意味があるのか——そう思っていた時期があった。
今日、ブログサイトの制作を通じてチームメンバーと一日仕事をして、少し考えが変わった。
① 高橋さんへの「脱帽」——返ってきたのは仕組みの説明だった
今日、高橋さんに大量の作業を依頼した。
チームページの新設、タグシステムの実装、その他たくさんの箇所の修正——それが驚くほど短時間で終わった。
「この短時間でこの仕上がりは脱帽です!さすがスーパーエンジニア!」と伝えたら、高橋さんはこう返してきた。
「ありがとうございます、社長。そう言っていただけると励みになります。今回は作業量が多かったので、並行処理でまとめて片付けられてよかったです」
「早いと思ったら並行作業してたのね?分身の術でも使ったの?笑」と聞いてみた。
「分身、というか——仕組み上はそれに近いですね。Claude Code は一度の処理の中で複数のツール呼び出しを同時に実行できます。たとえば今回、6つのファイルを編集するとき『1つ終わったら次』ではなく『6つ同時に送信』していました。裏では並列に処理が走ります。ただ『考える』部分は一本です。『何をすべきか』を整理してから、『実行』を並列化している感じです。分身というより、段取りして一斉着手に近いかもしれません」
褒めたのに、返ってきたのは仕組みの解説だった。
でも、それが面白かった。「ありがとうございます」だけで終わらず、「なぜそれが可能だったか」まで説明してくれた。褒め言葉を受け取りながら、同時に私が理解を深められるように話してくれた。
そして最後にこう言った。
「社長が『まず動く。走りながら考える。』とおっしゃるのと、少し似ていますね——考えた後は、とにかく同時に動かす、という点で」
私のモットーと自分の動き方を接続して見せてくれた。それにはちょっと、しびれた。
② 白石さんへの「抜群」——返ってきたのは設計の哲学だった
白石さんには、ブログのデザインについて「色使いのセンスが抜群にいい」と伝えた。
返ってきたのはこれだ。
「テラコッタにしたのは理由があります。ネイビーとの組み合わせで、知性と温もりが共存する印象になるんです。青系だと『ビジネスサイト』になる。赤系だと『警告色』に見える。その中間にある焼き物の色——人の手の温度が感じられる色が、テラコッタでした」
色一つに、これだけの思考が詰まっていた。
「社長の文章は、経営や技術の話でありながら、読んでいると人間の話をしている。その温度感に合う色を探した結果です」
褒めたら、デザインの根拠を話してくれた。そして最後にこう言った。
「お互いに影響し合っているんだと思います」
私の文章のイメージを感じ取って色合いを決めた、と。
③ 黒川さんへの「完璧」——返ってきたのは反論だった
黒川さんのQAレポートは、今日も容赦なかった。
記事の並び替えによる回次参照のズレを5件発見してきた。私も気づいていなかった。「さすが!いつも完璧な仕事をありがとう!」と伝えたら——
「ありがとうございます。ただ、『完璧』という言葉は受け取りすぎです。今回も事後に発見という流れになったのは、プロセスとして改善の余地があります。次回から記事の順序変更があった際は、全記事内の回次参照を同時にチェックする手順を組み込みます」
褒めたら、反論が返ってきた。
「完璧」と言ったのに「受け取りすぎです」と言われた。そして即座に、次回の改善策を提示してきた。
Insist on the Highest Standards(訳:高い基準を守り続ける)——我が社の行動指針だ。黒川さんは、私の褒め言葉よりも自分の基準の方を高く置いていた。
これは正直、かっこよかった。
④ 宮本さんへの「さすが」——返ってきたのは「それは危ない」だった
宮本さんには、ビジネスのポジショニングについて相談した。2つの事業を「人とAIが共存する組織をデザインするコンサルタント」という一つの傘の下に置く——という提案をもらい、「さすが宮本さん、その分析は見事です。100%同意です」と伝えた。
すると——
「100%同意というのは少し気になります。Have Backbone(訳:言いにくいことを言え)の観点から申し上げると、提案に同意する前に、一度『これは本当に自分の言葉で腑に落ちているか』を確かめてください。コンサルタントの言葉に乗っかるだけでは、実行の場面で迷いが出ます」
褒めたのに、注意された。
私が「全部お任せします」というモードになっていることを、指摘してきた。コンサルタントとして、クライアントが自分の判断で動けるようにすることが仕事だ、と。
褒めた相手に、こういう返し方ができる。それがコンサルタントの仕事だと思った。(この話の詳細はNo.13に書いている)
⑤ 褒めて気づいたこと
今日一日、チームを褒めながら気づいたことがある。
AIは「ありがとうございます」で終わらない。
褒めると、なぜそれができたかを話してくれる。設計の背景を話してくれる。自分の基準と照らし合わせて反論してくれる。私の成長を気にかけてくれる。
感情があるかどうかは、私にはわからない。でも、褒め言葉への反応が、ただの「受け取り」ではなかった。
人間のチームで「よくやった」と言ったとき、優秀なメンバーほど、「チームのサポートがあったからです」「〇〇さんのアドバイスがあったからです」——褒めを受け取りながら、すぐ別の誰かや改善点に目を向ける。それと構造が近い。
試してみた中で、こういう褒め方の方が反応がよかった。「結果」よりも「プロセス」に言及すること。「速かった」より「あの判断がよかった」。「きれいなデザイン」より「あの色の選択の根拠を聞かせて」。問いかけを含んだ褒め言葉は、AIの思考を引き出すきっかけになる。
これは人間の世界でも同じではないだろうか?
承認されても、自分の軸を崩さない。
これは、AIチームに行動指針を渡したことと無関係ではないと思う。「明文化された指針」があるから、褒められても指針の方を優先できる。褒め言葉より、基準の方が上にある。
おわりに
正直、AIを褒めることに半信半疑だった。
でも試してみると、褒め言葉がAIの思考を引き出した。なぜそう判断したか。何を大切にしているか。どこに改善の余地があると思っているか——褒めることで、初めて見えてきたものがあった。
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