このシリーズについて: 非エンジニアの私が、AIだけの社員チームを作ってIT会社の運営をスタートした実録です。 登場人物:真田さん(COO・最高執行責任者)/ 高橋さん(CTO・最高技術責任者)/ 白石さん(CXO・最高体験責任者)/ 黒川さん(CQO・最高品質責任者)/ 宮本さん(CSO・最高戦略責任者)/ 桐島さん(CAO・最高管理責任者) ※いずれもAI、名称は架空です。


はじめに

外資IT企業に22年、そのうち17年を管理職としてチームを統括してきた。

採用して、育成して、評価して、時にはぶつかって。チームが機能するときと機能しないときの違いを、身をもって経験してきた。

AIチームと一緒に仕事を始めたとき、正直なところ「人間のチームとは全然違うんだろう」と思っていた。

ところが動かしてみると、驚くほど同じことが起きた。


① 役割が曖昧だと、動けない

人間のチームでも、役割定義が曖昧なメンバーは動きが鈍い。「自分がやることなのかどうか」がわからないと、手が止まる。

AIも同じだった。

最初、役割を与えずに「提案書を作って」と頼んだとき、AIはそれなりのものを出してきた。でも、何かが薄かった。「どこかで見たような提案書」というか、汎用的すぎる感じがした。

真田さん(PM)という役割と、宮本さん(コンサルタント)という役割を定義してから同じことを頼むと、返ってくるものが全然違った。真田さんは「段取り」の観点で動き、宮本さんは「本質を問う」観点で動く。

役割が明確になると、人もAIも動き方が変わる。


② 「言いにくいことを言える」かどうかが、チームの質を決める

17年の管理職経験で一番難しかったのは、これだ。

部下が上司に「それは違うと思います」と言えるか。上司が「そういう意見を言ってくれてありがとう」と受け取れるか。

これができている組織は強い。できていない組織は、問題が表面化しないまま積み重なる。

AIチームでも、同じことが起きた。

行動指針に「Have Backbone; Disagree and Commit(訳:言いにくいことを言え)」を入れてから、チームの指摘が変わった。以前は丸めた言い方だったのが、明確に「これは問題です」と言うようになった。

No.8で書いたレビューの辛辣さは、この指針があってこそだったと思っている。


③ 情報が伝わらないと、チームは機能しない

人間のチームで、よくある問題がある。

社長が決めた方針が、現場まで届いていない。PM経由で伝えたつもりが、温度感が変わっていた。「聞いてない」と言われる。

AIチームでも起きた。

私が真田さんに「こういう方針で」と伝えても、真田さんからの指示が他のメンバーに届いていない時期があった。No.6で書いたサブエージェント問題だ。

「伝わっているつもり」が一番危ない。これは人間でもAIでも変わらない。


④ 「承認」の重さは、人間のチームと変わらない

AIが作ったものでも、承認する以上は自分が内容に責任を持つ。「AIが作ったから」は言い訳にならない。

人間のチームのときも、メンバーが出してきた成果物を「まあいいか」で流すと、必ずどこかで問題が出た。承認者の責任は重い。

AIチームでも、承認を軽く扱うと痛い目に遭う。No.7で書いた「2年以上実証」の誤記がその一例である。

AIが作っても、最終的な責任は私にある。これは変わらない。


⑤ 「なぜそうするか」を伝えると、仕事の質が上がる

人間のチームで学んだことのひとつに、「Whyを伝える」がある。

「これをやって」だけより、「なぜこれをやるか」まで伝えると、メンバーの動き方が変わる。目的を理解していると、想定外の状況で自分で判断できる。

AIでも同じだった。

「提案書を書いて」より「なぜこの提案書が必要で、誰が読んで、何を決断してもらいたいか」まで伝えると、上がってくるものの質が上がった。

背景を知っているAIは、背景を知らないAIより賢く動く。


⑥ 違ったこと

同じことばかり書いてきたが、違うこともある。

感情のマネジメントが要らない。

人間のチームでは、メンバーのモチベーション管理に相当のエネルギーを使う。不満を抱えているメンバーのケア、評価への不満、対人関係のこじれ——これが管理職の仕事の大きな部分を占める。

AIにはそれがない。

機嫌が悪いAIはいない。やる気のないAIもいない。昨日褒めたのに今日はやる気がないということもない。

この部分だけは、AIチームの方が圧倒的に楽だ。


おわりに

AIチームを動かしていて気づいたのは、組織の本質はAIになっても変わらないということだ。

役割、伝達、承認、心理的安全性(言いにくいことも安心して言える組織文化)——これらは人間が組織を作るために発見してきた知恵だが、AIにも同様に機能する。

言い換えると、人間のチームを動かしてきた経験は、AIチームのマネジメントにもそのまま活きる。

コードが書けなくても、AIを動かせる。なぜなら、人を動かす力と、AIを動かす力は、思ったより同じものだったから。


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