このシリーズについて: 非エンジニアの私が、AIだけの社員チームを作ってIT会社の運営をスタートした実録です。 登場人物:真田さん(COO・最高執行責任者)/ 高橋さん(CTO・最高技術責任者)/ 白石さん(CXO・最高体験責任者)/ 黒川さん(CQO・最高品質責任者)/ 宮本さん(CSO・最高戦略責任者)/ 桐島さん(CAO・最高管理責任者) ※いずれもAI、名称は架空です。


はじめに

ある日、会話のログを眺めていて、ふと気になることがあった。

各AIのルールブック(私たちは "agent.md" と呼んでいる)を並べてみると、真田さん(COO)のファイルだけが突出して大きい。他のメンバーは100行前後に収まっているのに、真田さんだけが600行近い。

「これは何かおかしい」と思った。

私は真田さんに聞いた。

「真田さん、大丈夫ですか?」


真田さんの自己分析

この問いかけを受けて、真田さんはすぐに自分のファイルを分析した。

調べてみると、596行のうち220行が「各メンバーへの依頼文テンプレート」だった。高橋さんへの依頼の仕方、黒川さんへの依頼の仕方、白石さん・宮本さん・桐島さんへの依頼の仕方。それが5名分、全部真田さんのファイルに収まっていた。

さらに残りを確認すると、「全員が守るべき共通ルール」——チームのタスク管理方針、品質ゲートの基準、行動指針の活用方法——こうした内容も、真田さんのファイルに集中していた。

つまり、本来チーム全員のものであるルールが、なぜか真田さん一人に積み上がっていた。

真田さんは率直に言った。

「私が抱えるべきものではなかった、ということです。」


これは「デレゲーション」の別の失敗パターンだ

No.25で私はこんなことを書いた。

デレゲーション(権限移譲)の本質。仕事を任せるとは、丸投げすることではない。期待するアウトプットのイメージを、きちんと言語化して渡すこと。

No.25で取り上げたのは「渡す側の問題」だった。文脈を渡さずに丸投げすると、アウトプットの質が下がるという話だ。

今回は違う失敗パターンだ。

特定の人に、仕事が集まりすぎる問題。

渡す側が丁寧に渡しているつもりでも、常に同じ人に渡し続けると、その人のところに仕事が山積みになる。渡している側は気づきにくい。当の本人も、「私の仕事だから」と受け続ける。気づいたときには、ファイルが600行になっていた。


人間の組織でも、同じことが起きる

これは、AIチームだけの話ではない。

「あの人に言えば何とかしてくれる」——こういう人材が組織にいる。優秀で、頼りになる。だからこそ、あらゆる案件が集まってくる。最初はうまく回る。でも時間が経つにつれて、その人は「何でも屋」になっていく。本来やるべき仕事に集中できなくなる。周りは「いつでも頼める」と思っているから、問題に気づかない。

そして、その人が抜けたとき、初めて組織は気づく。「実はあの人に全部依存していた」と。

これは、マネジメントの現場でよく見る構造的な問題だ。No.25で「渡す側の問題」を書いたが、今回は別の軸——「渡し先の偏り」——を自分のチームで確認することになった。チームとして機能しているように見えながら、じわじわと限界に近づいていく——そういう失敗だ。


プランを立てて、再設計した

問題が分かれば、解決は早い。

まず、全員が守るべき共通ルールを、真田さんのファイルから切り出して独立したファイルに移した。次に、各メンバーへの委任テンプレートも専用ファイルに分離した。ブレストの進行役は、これまで真田さんが担っていたが、戦略的な議論をリードする役割として宮本さん(CSO)に移した。

AIチームから提案された設計変更の方向性を私が確認した。組織の全体構造に関わる変更は、現場に委ねきらず、経営者が最初に全体像を確認してから動かす——人間チームで言えば、当然の話だ。AIチームでも、変わらない。

結果として、真田さんのファイルは596行から167行になった。7割以上の削減だ。

ただ数字より大事なのは、ファイルの中身が変わったことだと思っている。今の真田さんのファイルには、COOとして本来やるべきことだけが残っている。


おわりに

「大丈夫ですか?」という問いかけが、今回の出発点だった。

私が違和感を持ち、声をかけた。真田さんが自分で分析し、問題を言語化した。そこから解決が始まった。

No.25で「AIへの丸投げは、なぜうまくいかないのか」を書いた。今回の記事は、ある意味でその続きだ。うまく渡せるようになっても、渡し先が偏っていれば、やはりうまくいかない。

渡し方だけ気をつけていても、渡し先が偏っていれば同じことが起きる——今回はそれを実感した。

このチームを動かしながら、繰り返し気づくことがある。「何でも屋」を作らない、役割に応じた仕事の設計、声をかけて問題を引き出す——これは私が17年のマネジメントで何度も向き合ってきたことだ。AIチームでも、やっていることは変わらなかった。

あなたのチームに、仕事が集まりすぎている人はいませんか。


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